古墳時代、死者の国に人間を連れてゆく「乗り物」として舟と馬があるとのことでしたが、現在馬についての信仰は消えてしまっているようです。なぜ舟だけ残ったのでしょう。

それは、現代に至る交通手段の発展のなかで、人間を遠くに運ぶツールとしての馬の位置が、次第に低下してきたからでしょう。冥界へ人間を運ぶことができるのは、人間の想像を超えた移動力を持つからに他なりません。日本では中世あたりから、地獄へ亡者を運ぶ「火車」といった妖怪が登場しますし、逆に極楽へゆくときは、天上にたゆたう「雲」が運び手となっています。現代では、幽霊の出現するツールとして自動車が一般化しています。陸上交通が、時代とともにその姿を大きく変化させてきたのに対し、船は性能こそ進化させてきたものの、船であることには違いありませんので、未だに死者の乗り物としての地位を保っているのでしょう。海という領域の不可視性も原因のひとつと考えられます。