古代からかなり大規模な環境破壊が行われていたことが分かりました。ではなぜ、「日本人は自然と共生してきた」という誤解が浸透してきたのでしょう?

日本列島の自然条件は植物の生育に適しているため、自然の回復力が強く、人間の爪痕が長く残存しない環境にあります。すなわち、過去の人間たちが破壊した環境も、多くは年月が経つうちに消えてしまい、後世の人々の記憶には残らなくなるわけです。こうした情況では、自然環境に対する責任感はなかなか育たず、依存度ばかりが強まります。森羅万象に霊魂を認めるアニミズムや、それらを神として崇めるパンセイズム、仏教が入ってきてからの神仏習合、現実世界をそのまま神仏の世界と肯定する本覚論は、環境への依存を甘えにまで拡大してゆきました。その結果日本人には、自然を母のように慕いつつ必要に応じて無責任に破壊するという、いびつなメンタリティーが醸成されることとなります。目前に祖先たちの残した傷跡もなく、環境への責任感も存在しないので、歴史的認識に依拠しない「共生の幻想」ばかりが再生産されていったものと考えられます。