竜宮城が出てくる昔話は日本各地に残っていると思うのですが、すると道教は日本人にとって身近な存在であったということですか。 / 後の八色の姓の「真人」も道教思想から来ているのですか?

道教は、中国王朝の歴史においては、常に民衆反乱を喚起するきっかけになっています。そのため、ヤマト王権は「体系的宗教としての道教」の輸入を拒みました。しかし、中国で深く浸透した道教の知識や、詩文などの文芸に反映した神仙思想は、否応なく列島に入ってきてしまいます。とくに天武朝には道教の影響が強く表れており、八色の姓の「真人」ももちろん神仙のことですし、天武自身が天文遁甲などの道教的占術をよくし、「天渟中原瀛真人天皇」(高天の原に由来する玉を産する沼地にそそり立つ神山にある神仙たる天皇)という道教的諡を持っています。天皇という名称自体も、道教に由来する言葉なんですね。文芸に浸透した神仙思想は、不老不死の神仙郷たる月を描いた『竹取物語』、海の彼方や山奥にある神仙郷を登場させた「浦島子」、「桃太郎」などのおとぎ話となって日本中に広まってゆきます。