神話は宗教や倫理など様々な要素を含んでいるとのことですが、逆に、宗教が動物信仰や動物に対する信仰を生み出したこともあったのでしょうか。

これは大いにあります。大体において、宗教がそれ以前の動物観を取り込み発展させてゆくということになるでしょう。例えば特殊な例でいうと、日本の稲荷信仰が挙げられます。イナリはイネナリ、すなわち元来は穀霊信仰ですが、その使者は狐とされ列島中に認識されています。しかし、狐と稲作とは何の関係もありません。ではなぜ稲荷と狐が結びついたのか。これは、稲荷の源流である京都の伏見稲荷が、真言宗の中心のひとつ東寺の鎮守社となったことと関係があると考えられています。密教で崇拝するダキニ天という神格がありますが、これはそもそもインドではジャッカルを神格化したものでした。しかし日本に将来された際に、列島にはジャッカルがいなかったため、狐に置き換えられたのです。それが東寺と稲荷社との関係から神使の狐に仕立てられ、現在に至ったのです。こうした経緯がなければ、列島の多くの神社で狐の姿を認めることはなかったでしょう。