2009-11-25から1日間の記事一覧

熊送りの儀式で熊の解体を行うのは、一族の長でしょうか。ケガレのような観念はなかったのですか。

とくに長が行うということではなく、一族みな(力の要る仕事は男性)で解体を担ったようです。平等性の強い狩猟採集社会では、信仰の対象であり主要な食物でもある動物を解体するのは、ケガレが忌まれるというより逆に栄誉ある行為でしょう。動物解体業者を…

木幣は、アイヌの人々しか作っていないのでしょうか。昔読んだ、縄文と弥生の移行期を舞台にしたファンタジー小説に、似たものが出てきた気がするのですが。

恐らく、アイヌを縄文人の末裔とする立場から書かれたんでしょうね。その繋がりをまったく否定することはできませんし、近年ではDNA分析の結果アイヌと縄文人は直結するといった見解もでてきています。しかし、木製品は酸化しやすいため、縄文のような古い時…

ヨーロッパでは熊の代わりに、どのような動物が強い信仰の対象となっていたのでしょう。

いろいろいると思いますが、例えば獅子=ライオンなどは、キリストの復活・威光を象徴するものとしても位置付けられ、未だに百獣の王との認識を保持しているのではないでしょうか。貴族の紋章にも多く使われていますよね。

ヨーロッパで熊の絶滅が多くみられることは、その地での熊に対する信仰と関係があるのでしょうか? / 現在のヨーロッパでは、何か熊に関する祭礼は存在するのでしょうか?

まったく関係がないということはできないでしょう。動物の主神話のある形式が、際限のない狩猟が対象となる動物の絶滅を将来することのないように作成されていることからすれば、絶滅が起こってしまったのは、もともとその種のルールがなかったか、あったと…

『三国遺事』の檀君神話に虎が登場していましたが、その役割・意義はなんでしょうか。確かに、朝鮮というと虎に馴染みが深い気もするのですが…。

やはり熊と対比される役回りでしょうが、熊に比肩しうるほど強力だが、獰猛で忍耐力がない(物忌みができない)動物との認識が現れています。次回の狼に関する講義でも触れますが、中国における虎はヨーロッパにおける狼の相似形で、力の象徴として崇められ…

『三国遺事』の檀君神話で、熊が三七日目に人間になったというのは、どのような意味があるのでしょう。

「三七日」というのは、37日ではなく3×7日、つまり21日のことです。つまり、熊は3週間で人間になったということです。この表現により深い意味があるのか、数字に特別な意味があるのかどうかは分かりませんが、熊が虎よりも人間に近いことを暗示しているの…

ナーナイの熊と人間との婚姻譚ですが、主や王として暗示される熊になぜ女性がなれるのでしょう。婿入りの話もあるのですか? / 毛皮をかぶると熊になれるというのは、インディアンの山羊の場合と同じでしょうか。

農耕社会の成立、王権や国家の成立以降は、神に対する供犠には多く女性や子供が用いられるようになり、祭祀や物語としてもその構図が持続してゆきますが、狩猟採集社会においては女性性を持つ神的存在のもとへ男が婿入りする、という神話も認めることができ…

熊の骨を焼くという行為は、亀卜などに繋がるのでしょうか。

繋がりますね。亀卜の際にもお話ししたように、動物の骨や甲羅などを熱して占いをする熱卜という方法は、根源的には供犠に起因するものと考えられています。すなわち、火によって神のもとへ送った犠牲獣の残骸である骨に認められる変色、亀裂などが、やがて…

狩猟紋土器の熊と弓矢のサイズの相違には、何か特別な意味があるのですか。

民族社会の絵画はリアリズムで描かれてはいませんので、ものの大きさは実際の大小ではなく、重点や注目度を指すことになります。狩猟紋土器の場合、熊そのものよりも、それを狩猟することに重要性を見出しているわけです。ゆえに考古学の方でも、熊それ自体…

熊は威力のある動物ゆえに信仰の対象になったのだと思いますが、弱い動物が主として崇められることはなかったのでしょうか。

例えば兎などは、自然界の生態系ピラミッド上あまり高くない位置にいると思いますが、日本列島では「神」と崇めた痕跡が認められます。『古事記』のオホクニヌシ神話で有名な稲葉の素兎(シロウサギ)も、同書に「兎神」と表記されており、助けてくれたオホ…

北方ユーラシアや北米などと日本では、熊に対する信仰に相違はあったのですか。

細かな点を挙げれば様々な相違がありますが、やはり大きな点は、それは飼熊送りをするかしないかということでしょう。熊を狩猟した際の狩熊送りは、ニュアンスの相違こそあれ広く見受けられる行為ですが、幼い熊を飼育しておいて殺害するという特殊な送りは…

チペワイアンの村がカリブーを獲れずに全滅してしまうと、それはベジアーゼに見捨てられたと解釈されるのでしょうか。

そういう可能性はありますね。ベジアーゼの側が契約を反故にしたわけで、これは人間の側に何か約束違反があったものとみなし、お祭りなどを行って契約の更新をはかるという形になると思います。日本史上にも時折現れる祟り神の災禍なども、現状の祭祀では神…

チペワイアンには、カリブーの肉しか食糧がないのでしょうか。

チペワイアンの生活しているカナダ北部からハドソン湾沿岸にかけての地域は、夏が短いため、農耕が充分に発達しませんでした。よって彼らはカリブーの肉を主なタンパク源とし、湖や川での漁労、森林での採集活動によってそれを補いつつ生活しているようです…

ひとつの神話を下敷きに、地域ごとに少しずつ話が違うということもあるのでしょうか。大体の筋書きは同じでも、力点の置かれるポイントが異なったりすることはあるのですか。

それは当然あるでしょう。各地の神話や伝承、昔話などには「類話(ヴァリアント)」というものが存在しますが、これはまさに、類似の話で各要素の力点が異なるものなのです。物語として読むと「同じようなもの」になってしまうのですが、その地域で一体何を…

神話は宗教や倫理など様々な要素を含んでいるとのことですが、逆に、宗教が動物信仰や動物に対する信仰を生み出したこともあったのでしょうか。

これは大いにあります。大体において、宗教がそれ以前の動物観を取り込み発展させてゆくということになるでしょう。例えば特殊な例でいうと、日本の稲荷信仰が挙げられます。イナリはイネナリ、すなわち元来は穀霊信仰ですが、その使者は狐とされ列島中に認…