ナーナイの熊と人間との婚姻譚ですが、主や王として暗示される熊になぜ女性がなれるのでしょう。婿入りの話もあるのですか? / 毛皮をかぶると熊になれるというのは、インディアンの山羊の場合と同じでしょうか。

農耕社会の成立、王権や国家の成立以降は、神に対する供犠には多く女性や子供が用いられるようになり、祭祀や物語としてもその構図が持続してゆきますが、狩猟採集社会においては女性性を持つ神的存在のもとへ男が婿入りする、という神話も認めることができます。熊との関係でも婿入り譚が見出せますが、飼熊送りが実施されるアムール川流域から北海道にかけては、人間との交渉においては熊=女性/人=男性という構図の成り立つことが多いようです。このあたりのジェンダー・ロールの分析はまだ充分行われていないようですが、民族や地域の社会構造、文化形態を考えるうえで重要な問題と思います。
人間の熊への変身については、インディアンと山羊の物語と同様、毛皮を媒介に説明されています。動物の本体は精霊で、それは人間と同様の姿をしており、毛皮は服に過ぎないという考え方は、ナーナイやアイヌにおいても共有されている、狩猟採集社会の基本的な自然観、世界観です。