アイヌは文字を持たない文化だと聞いていますが、このような伝承は明治あたりまで連綿と伝えられていたのでしょうか?
むしろ正確には、アイヌではどの時代にまで遡れるのかが議論の焦点のひとつになっています。講義でも紹介したのですが、例えば列島における熊胆の流行は近世に始まるので、飼熊送りが熊胆採取と直接的に結びつくものとすれば、イヲマンテは江戸時代以降に発展したものとしかいいえません。しかし、考古学的に確認できる祭祀の痕跡や、人類学的調査によって判明する狩猟採集と動物の主神話との結びつきから、農耕社会以前の先史段階から同種の祭儀が実施されていたこと(それは必ずしも、同じ儀式次第を持つことを意味しない)が想定されているのです。