熊は魔除けの力があるとのことですが、逆に〈魔〉とされる動物はいたのでしょうか。
代表的なものは蛇でしょう。蛇は縄文期より水に関わる神霊として崇拝されていたことが確認でき(縄文中期の中部地方など、原始農耕が開始された地域で蛇のモチーフを持つ土器が登場します。世界史的に蛇は水との関わりが強いので、農耕における水の必要性から蛇への信仰が生じたのだろうと考えられています)、7世紀頃には自然環境を体現する代表的な神格として現れますが、自然の制圧を志向する王権によってその権威は貶められてゆきます。また仏教が広まると、蛇を畜生、とくに瞋恚(怒り)が抑えられなかったために悪業を得た生命と位置付ける見方が強くなり、マイナス・イメージが強化されてゆきます。平安時代には、かつて男性象徴であったものが、嫉妬、執念深さなどの表象から女性に転じ、僧侶を冒涜する存在に変わってゆくのです。