道成寺縁起といい、化け物に変身するのは女性の方が多いように思うのですが?
道成寺縁起で清姫が変身する竜蛇は、かつては男性象徴で男が変身するものでした。世界的文脈でいうと、脱皮を繰り返すところから死と再生のシンボル、死の秘密を知っているものと考えられ、ギルガメシュ神話では主人公から不死の力を奪うもの、『旧約聖書』ではイヴを堕落させるサタンの化身として登場します。また、湿地に生息することから、水の神との認識も広くあります。日本では、原始農耕が始まる縄文中期の中部地方に、蛇のレリーフを持った土器が出現し、農耕の開始により水への関心が増したものとみられています。古代神話において蛇の姿で登場する三輪神は、水の管理をなす山の神でもあり、雷神でもありました。以前講義でも扱いましたが、大地に突き刺さる雷という構図は性交渉の暗喩とみられており、それゆえに「イナヅマ」という名称も生まれたのです(ツマは必ずしも女性だけを指す言葉ではありません)。『古事記』に登場するヤマタノヲロチも、斐伊川の流れる峡谷を象徴する神で、若い女性の供犠を求めることからしても明らかに男です。このような蛇=男性の構図が壊れるのは仏教が入ってきてからで、仏教が女性を嫉妬深く罪の大きいもの、成仏できないものと喧伝するなかで、蛇のイメージと女性のイメージが強く結びついていったものと考えられています。