狼が神から恐怖の対象としての獣に簡単にかわってしまうことが、よく理解できません。狼が人を襲うことも、祟りとして認識されなかったのでしょうか?
前回のブログでも少し書きましたが、狼が動物と考えられるに至って、「祟り」という枠組みでは捉えられなくなったようですね。話すと長くなりますが、「祟」という概念は、中国古代の殷王朝が国家的レベルで行う占いによくない結果が出たとき、それを具体的に説明するために作られましたものです。文字としては、王に被害をもたらす長毛の獣の象形です。以降、歴代の王朝において、合理的に説明できない被害が生じた際、占いの果てに「祟」を持ち出すことがしばしば行われました。日本の王朝もそれを踏襲しますが、祟りを下す主体は自然神、怨霊/御霊と変化をしてゆきます。御霊信仰が盛んになった平安期には、中国の類書などの影響で狼を獣とする見方が浸透しつつありました。それと軌を一にしながら、祟りなす存在は動物ではなく、より高尚な神霊(例えばかつて人間であったもの)が下すという認識が強くなってゆきます。近世の段階では、神社に狼が祀られたり、狼を神の使者もしくは眷属とみる地域も存在しましたが、狼一般を祟りなす主体とする見方はなかったようです。