中国ではそれほどたくさんの虎がいたのでしょうか。今はあまりいるという気がしないのですが。

中国の虎害は大変なもので、その凄まじさはあらゆる文献に出て来ます(もちろん、狼と同様の誇大宣伝も行われたでしょうが)。明代には虎害を回避するための「駆虎文」という祭文が、各都市を守護する城隍神に奉られました。虎の減少は日本の狼とほぼ同じ推移をたどっていて、林業・農業の発達が山林を奪い、彼らが出産・子育てする場所を消滅させていったようです。極めつけは中国共産党で、虎は人間に害をなす動物として組織的な撲滅作戦がとられました。これにより、中国各地で虎は全滅してしまったのです。同じ時期、モンゴルでも狼狩りの嵐が巻き起こっていたことは、『神なるオオカミ』に述べられているとおりです。虎については、上田信『トラが語る中国史―エコロジカル・ヒストリーの可能性―』(山川出版社、2002年)を参照してください。