一般の人が墓を持つようになったのは江戸時代からとのことですが、それまではみな遺棄葬であったとみていいのでしょうか。

経年変化に強い石材を墓碑として明確な墓所を作り、子孫に及ぶまで墓参を続けるという年中行事的な習俗が庶民にまで及ぶのは、やはり近世でしょう。それ以前は、埋葬されても後々場所が分からなくなったり、そもそも個々人の埋葬地をはっきり覚えておく必要自体が認識されなかったようです。もちろん、支配階層に近い人間には、早くから明確な墓所を設ける発想がありました。しかし、例えば平安時代の貴族の日記のなかにも、「墓参に赴いたが墓の場所が分からなかった」という記録がみられるのです。中世以前の著名人の墓所には、後世の人々が新しく設けたものも少なくありません。共同体意識や「家」制度の変化、個人なるものの自覚など、喪葬制度・儀礼にはさまざまな問題が絡んできますので、時代や社会をマクロな目で捉える観点が必要ですね。