レヴィ=ストロースのトーテム理解と、伝統的なトーテム理解の差がよく分かりませんでした。
授業では何度も説明しましたが、確かにこれは難しい問題で、レヴィ=ストロースの思考も著作によってかなりブレがあることもあります。『今日のトーテミスム』『野生の思考』ではラディカルですが、その後の『神話論理』シリーズでは、本質主義的な理解に近いことも述べているのです。とりあえず確認しておきたいのは、レヴィ=ストロースの批判した伝統的トーテミズム理解が、ヨーロッパ近代主義に基づき民族社会を「原始」「非合理」の枠のなかへ閉じ込める解釈であったこと、彼の議論によってトーテミズムも人間の合理的分類作業の一形態であり、ヨーロッパの科学的思考以上に普遍的な広がりを持つ可能性が開かれたことです。民族社会の人々が文化を構築してゆくときに用いる自然種の関係性は、「種操作媒体」などと翻訳されます。講義でお話ししたタカ/カラス、フクロウ/ヨタカなどがそれに当たります。この「種操作媒体」が神話構築の基本要素で、彼らはこれを巧みに組み合わせることによって(ブリコラージュ)、めくるめく神話の世界を構築してゆくのです。この関係性の概念は、人間は言葉の生み出す「差異」によって混沌とした世界を分節し、それぞれに適合的な環境世界を創出してゆくという、ソシュール以降の構造主義言語学、記号学の立場に基づいているのですが…それはまた別の機会にお話ししましょう。