なぜ、夢に仏意をみる信仰が生まれたのですか。

夢に神意をみる伝統は、東アジアの歴史資料では殷代の甲骨卜辞から確認できる、極めて古いものです。周代には天意を確認し王にサジェスチョンを与える占夢の官も存在し、戦国時代に至るまで活躍しています。秦漢前後から政治的価値は弱まりますが、道教では神仙と交流する重要な手段として位置づけられるようになってゆきます。こうした思想はインドや西域にも存在したと考えられますが、仏教が中国にもたらされた折、独自に発展を遂げた夢文化と交流、その意味は爆発的に拡大してゆきます。六朝期には、瞑想のなかで仏と出会い、教えを感得する修行法が流行しますし、そのなかで蓄えられた神秘体験や、説話や感通録などの形式で伝えられてゆきます。古代日本には、儒教道教系統の占夢知識、仏教系統の占夢知識が両方とも入ってきており、『霊異記』や平安期の夢判断をみていると、例えば敦煌文書の占夢書と同じ内容のものもみることができます。夢は他界と繋がることのできる境界であり、それはとりもなおさず、東アジア世界と直結する空間でもあったといえるでしょう。