「史」の文字が算木を入れる籠を手に持った形とすると、これは占いの的中率を測ろうとした周代以降に作られた文字なのでしょうか。 / 「史」の字が権力に逆らっても正しいことを記すといった意味とすれば、中国の歴史書のあり方と矛盾するのではありませんか。

いえ、「史」自体は甲骨段階からみることのできる文字です。算木の問題は射儀の命中数を数えるといった解釈で、卜占自体の的中率に関することではありません。また、『説文解字』の「中正なり」という説明は、あくまで後漢の時点での解釈と考えればいいでしょう。中国王朝の正史のありようは、確かに近代歴史学の視点で分析すると権力の正当化という面を否定できませんが、史のあり方の歴史像としては、地の権力に阿ることなく天の意志に添うことを理想としたのです。それに従った直諫の様子は、やはり『春秋左氏伝』などにみえ、それゆえにこの書物は、後世の史論(例えば、南梁の劉勰撰『文心雕龍』史伝など)にもその「勧善懲悪」性を讃えられています。