これだけ不審な目でみられている猫を、どうして習慣を気にする貴族たちが受け入れ、愛翫したのだろう。

平安時代の王朝文化といっても、すべてが先例に則って動くわけではありません。遣唐使廃止以降も、中国からは様々な文物が積極的に取り入れられていましたし、人々は新鮮なものを求め、新しい文化を生み出していました。以前にもここに書きましたが、王朝文化における猫の飼育は、先進的な中国文化を体現するものとして始まったと思われます。レジュメでも紹介した宇多天皇の猫に関する記述、『枕草子』『源氏物語』『更級日記』における猫のエピソードをみますと、人々はその自由気侭な振る舞いを不思議がり、また楽しんでみつめていたようです。現代の我々以上に、「両義性」に対する高い包容力を持っていたのかもしれません。