なぜ、尾の長い猫が化けるという信仰ができあがったのでしょうか? / 絵の中に描かれた猫には尾の長いものが多いとのことですが、それは猫を猫らしく書く修法だったのではありませんか?

猫又自体の記述は中世前期から見受けられるのですが、未だ尾が二つに分岐したものとの形容はありません。当時は、それこそ「狸」で代表されるような山獣とみられていた節があり、100年生きた猫が猫又になるなどの話が出来上がるのは江戸時代以降のようです。恐らく、都市部でも愛玩の対象として猫の飼育が始まった際、除鼠の関係から猫の霊力を信じていた農村部の考えが、次第に流入し畏怖を生んだことが一因でしょう。デリケートな動きをする尾は猫の特徴のひとつでもあり、またアジアでは古くから、威力の強い動物は多尾であるとの考え方があります(漢代初期の『山海経』に、すでに「九尾狐」が登場しています)ので、中世からあった「猫又」の名称に因み、分岐する尾という表象が生まれたのではないでしょうか。ちなみに、講義でも紹介した国芳の『猫飼好五十三疋』では、猫又以外の猫はほとんど短い尾で描かれています。他にも短尾の猫の図像はありますから、鼠除けの猫絵や護符が長い尾で表現されるのには、やはりそれなりの理由があるものと思われます。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/2f/Cats_suggested_as_the_fifty-three_stations_of_the_Tokaido.jpg