レジュメの表をみると、持統天皇の頃には蝦夷の男女に冠位が授与されています。彼ら化外の人々には、単に王朝に服属するだけの存在ではない意味があるのでしょうか。

化外の民を王の徳治のもとに屈服させ、最終的には公民化してゆくことが、中華国家の王の理念でした。蝦夷に官位を授与することは、そのデモンストレーションとして行われたのでしょう。政治的な内実よりも、その点を喧伝する意味が強かったと思われます。また、仏教的世界の中心である須弥山を飛鳥に置くことは、そこが世界の中心、すなわち中華を意味するとの思想の標榜でもあります。齋槻や須弥山のもとでの服属儀礼は、夷狄の存在を明示する以上に、大王=天皇の正当性を創出し、律令国家の根幹を構築してゆく機能を持っていたともいえます。