戦後日本の無計画な植林のせいで、さまざまな問題が起きていると聞いたことがあります。今回の授業で扱った獣害や、花粉症の増加は、そうして起きたおとなのでしょうか。日本人が自然をどのように扱うか、古来の自然観とデカルト以降の近代の自然観の折り合いが、うまくいっていないように思います。

その地域環境本来の植生を無視して、林業に役立ちそうな杉林だけを植える、というのは確かに問題です。花粉症の一端はそこにあるでしょうが、同症状はそれに自動車の排気ガスに含まれるカーボンなどの影響が加わった複合汚染であり、恐らくは都市住民の食生活の変化等々に根ざしたアレルギー症状の多発とも関係しますので、植林だけに原因を求めるわけにはゆかないでしょう。また、獣害については授業でもお話ししたとおり、里山の放棄により森林が回復したことが原因です。まあ、「獣害」自体が農耕を最優先する概念なので、環境史的にはそれを前提にして語ることはできないわけですが。自然と文化とを二項対立的に把握する見方については、環境哲学・環境倫理の分野では早くに否定されています。すでにマルクスの時代に、自然と人間との相互交渉的関係が対象化されていましたので、世界が旧態依然としたものの見方を正当化の手段として便利に使用してきた、ということかもしれません。