〈動物の主〉神話には過度の狩猟を抑制する機能があったとのことですが、樹木伐採に関する神話にはそうした機能はなかったのでしょうか。

樹木伐採関係の神話伝承のなかでも、主に伐採に対して樹木が抵抗を示す、激しい場合は伐採者に病を与えたり怪我をさせたり、死に至らしめたりするというものがあります。それは、過度な伐採への抑制機能を持っていたと思われます。なかでも、山林における過度の樹木伐採が鉄砲水や洪水をもたらす、という伐採抵抗伝承など典型的でしょう。ただし、〈動物の主〉神話のような異類婚姻がモチーフのものに限っていうと、樹霊との婚姻を語る伝承には伐採抑制の機能はみられない、少なくとも中心的なものではないように思われます。樹霊の「人間性」が強調されることで、無駄な伐採に規制がかかるといった側面はあったかもしれませんが、いずれにしろ直接的なものではありませんね。