伝説は歴史を補完する場合があるとのことですが、伝説をそのまま受け容れてしまってもいいのでしょうか。その伝説が歴史を補完できるかどうかの検証の方法というものはあるのでしょうか。 / 書いている人が事実と信じていたら伝説になるとすると、歴史として扱ってもよいのか、信憑性は関係ないのかという疑問がある。

書いている人が事実と信じていたら伝説になる、というわけではありません。それを伝承する社会において、事実と認められているかどうかが問題なのです。歴史学でそうした伝説を扱う場合には、同一の事象について信頼できる史料があればそれと比較検討し、また同種の伝承があれば、いつそれが成立しどう展開していったのかを跡づけてゆきます。そのうえで、事実と誤解とを腑分けし、事実を補完しうる部分があればそれを利用する一方、事実に相反する部分があれば、なぜそれが事実と信じられたのかを追究する必要が生じてきます。実証史学の場合には、後者について考える必要はありませんが、心性史や記憶の歴史などの場合には、当時の人々の歴史観などを復原する貴重な材料となりうるのです。