昔話などは、長く語り継がれて社会的価値観に適合的になってゆくものが多いと仰っていましたが、それは今でいう童話などの下地ということでしょうか。また、『十訓抄』のように教訓のスタイルで語られているものも、社会に適合的ということでしょうか。

教訓は人間を社会の保守的価値観へ馴致する機能を持っていますので、多く社会に適合的であるといえるでしょう。ただし、その教訓の機能する社会が特定の集団に限定される場合、集団の性格によっては、逆に一般社会に対抗的となる場合もありえます。私は浄土真宗の寺院で育ちましたが、その教えは極めてラディカルなもので、例えば一般神社を礼拝しないなど、地域社会の価値観との間に軋轢を抱え込む場合もあります。また、「童話」については定義が難しく、近代・現代文学においては、逆に大人社会へのシニカルな態度を貫くもの、寓意に満ちた社会批判を展開するものなどがあり、すべて社会に適合的であるとはいえません。「昔話」と「童話」とは、内容的・方向的に必ずしも一致しない文学ジャンルであるといえるでしょう。