シンデレラとシャーマニズムについての話があったが、他のグリム童話にもシャーマニズム的な要素があるのですか?

グリム童話とは、本来はグリム兄弟がドイツで収集し整理した民話・伝説の類を、子供が読むおとぎ話として改変したものです(そのプロセスについては批判もあるので、ジャック・サイプス『おとぎ話の社会史』〈新曜社、2001年〉など参照)。彼らの調査・研究の成果は、『ドイツ伝説集』『ドイツ神話学』などに結実しており、ドイツ・フォークロアの嚆矢として、やはり柳田国男などにも影響を与えています。そこに収集された物語群には、キリスト教によって農耕=文明と対置された森林、森林とともにある生活が描かれており、野人や盗賊、樵や狩人、怪物や魔法使いなどが登場します。それらの幾つかは古いヨーロッパの民俗や祭祀に基づくものであり、キリスト教と交渉しながらもその教義に染まりきっていないモチーフたちです。ゲルマン神話の断片、あるいはそのヴァリアントと思われるものも多数存在しています。グリムというとすぐに念頭にのぼる魔法使いには、種々の表象が反映していますが、動物霊を駆使したり自らの魂を他界に飛ばしたりする存在は、シャーマンと同義に考えてよいでしょう。また、人間と他の動物が婚姻するという異類婚姻譚など、人間/動物が変身を繰り返す類のものは、やはりシャーマニズムアニミズムの反映です。動物の本体は人間の姿をした精霊であるとするのはアニミズムの基本的観念であり、動物への変身もシャーマンが祭儀や呪術でみせる基本的技能です。授業でお話しした冥界訪問譚に当たるものもあり、例えば『ドイツ伝説集』上巻の51「水の精と農夫」では、水の精霊と親しくなった農夫がその家に招かれ、そこに捕らわれていた溺死者の霊魂を解放する筋になっています。死者の霊をあるべき場所に送り届けることは、世界中のシャーマン的存在に共通する重大な義務であり、この話で語られている農夫も、シャーマニズムに基づくキャラクターであるといえるでしょう。