ユタのビデオをみせていただきましたが、一般女性がユタの歌のような語りを聞いたあと、なぜ激しい感情の高まりを生じたのでしょうか。また、それを聞いている私たちはなぜ平気なのでしょうか。 / 宗教には歌や音楽がついてまわるが、それは何故なのだろうか。日常会話とは違う音律に、非日常的なもの、神がかり的なものを感じ取るのだろうか。

神がかりの儀式なりそれに類する治療の類は、まず術者と患者、あるいはその場に居合わせた人との信頼関係、儀式が始まって終了するまでの全行程に参加すること、そして場の空気感を共有することが必須でしょう。その場に居合わせなければ、あるいはその場に参加した人と関係を持たなければ、我々には何の変化も生じず、彼らのことは何ひとつ分かりません。切り取られた映像を受像器でみているだけでは、単に観察者に過ぎないわけです。フロイト精神分析についても、最も重要なのは意志と患者の信頼関係であるといわれますから、そうした意味でも、巫病に罹った者がシャーマンに弟子入りして昇華してゆくことと、精神分析などとは共通性が高いのでしょうね。なお歌にはやはりリズムがありますので、単なる語りよりも身体との繋がりが深く、その分無意識の領域へ深くアクセスしうるものなのだと思います。心臓の鼓動など、生命には類・種から個体に至るまで固有のリズムがあり、民俗芸能や宗教音楽の律動はそれらとのシンクロ率が高い。意識でモノを考える前に身体が反応する、そのことが神秘体験を呼び起こす重要な契機になっているのかもしれません。