先日、皇族の女性と出雲大社の関係者の婚約が報道されました。確か神話のなかで、アマテラスとオオクニヌシの話から、皇族は長きにわたって出雲大社への侵入は禁止されていたものと記憶しています。今回の婚姻にこの神話はどう影響してくるのか、また現代への神話の重要性の観点から、この婚姻は何か新たな意味を持つのか。先生はどうお考えでしょうか。

皇族が出雲大社の本殿に入れないのは、神話の関係からではありません。『古事記』に語られる国譲り神話では、オオクニヌシはその条件として天つ神と同様の宮殿で祀られることを要請し、受け入れられます。つまり、オオクニヌシを祀るのは天つ神の側であり、出雲国造家はアマテラスの子孫なのです。では、なぜ本殿に入れないのか。それは、大社の祭祀が国造家のみに認められており、そうした存在として聖別されているからでしょう。アマテラスがなぜ伊勢へ鎮座するのかという一連の伝承のなかにも、もともと崇神天皇までは天皇の宮殿に共に「住んで」いたものが、神の力が大きいために障りがあり、宮殿の外へ出すということが契機として描かれています。あるいは三輪山神話のなかには、三輪の神オオモノヌシの祟りを鎮めるために、その子孫であるオオタタネコを祭官にするという伝承があります。地域地域の神とは、本来固有の祭祀者を選ぶものであって、そうした存在でなければ神の気に当たってしまう。出雲大社の本殿には皇族は入れないのではなく、皇族さえ入れないのであって、国造家以外を排除しているのだと考えられます。