湧水点祭祀と龍神信仰とは、何か関わりがあるのでしょうか。

龍については、弥生時代の土器にその存在が確認される、との説があります。その図像は足の生えた百足のようなものであり、妥当であるかどうかは未だ分かりませんが、古墳時代の段階で、そうした神獣に関する情報が伝来していたと考えてもおかしくはありません。しかし、現在確認されている古墳時代の湧水点祭祀の祭祀遺跡には、龍との関係を見出す根拠は挙げられておりません。面白いのは、7世紀に至って国家的開発が進行し、これまで手つかずだった水場を人間の空間にしようとする動きが始まると、人間と対立し倒される神として蛇の類が多く見出されることです。中国の神殺し譚を援用し、古代国家が開発をスムーズに進めようとしたためとみられます。現在、湧水点に龍蛇を祀っている場所が多いのは、仏教との関わり、とくに『法華経』信仰との関わりが強いように思われます。同経では、龍王が仏に帰依し、その娘が男性に化生して成仏を遂げる物語が描かれます。また、『法華経』を典拠とする観音信仰では、観音の故地ポータラカ(補陀落)が水辺にあることから、海岸部や湧水点を重視するようです。