『捜神記』の人/虎の変身譚について、中国の虎のイメージは凶暴で頭が悪いものだと以前聞きましたが、蛮族のイメージとも重なっているのでしょうか。

虎に対するマイナスのイメージは、虎害に苦しむ漢民族が意図的に作っていったものですね。実際に山中生活を行い、虎と共存していた少数民族には虎トーテムが濃厚に存在し、その強さや頭の良さを信仰しています。また、僧侶が山中修行をするようになった六朝期の僧伝類にも、虎がよく山神を象徴するものとして登場します。僧侶が虎を馴れさせること、屈服させることが、神仏習合の一表現形式として用いられているわけです。授業でも述べましたが、六朝の志怪小説から隋唐の伝奇小説にかけて、虎のイメージも変容してきます。『捜神記』にみえるような少数民族の信仰ともいうべき虎への変身譚は、虎を神として崇める、あるいは虎の優れた能力を讃える心性に基づいていたと思われますが、やがて人間中心主義が大きく展開してゆくなかで、「優れた人間」が神罰を受け、「凶暴な獣」=虎に変わるという形へ姿を変えてゆくのです。