兄妹婚姻型洪水神話には「ノアの方舟」に通じる選民思想があるように感じたのですが、何か関わりはあるのでしょうか。

近代になって採録された兄妹婚姻型洪水神話には、『旧約聖書』の影響を受けたとみられるものが明らかにあります。中国西南地域の少数民族にもキリスト教は布教されていますし、朝鮮半島の民間伝承には、まさにノアの物語として兄妹婚姻型を語る事例も存在します。後者の場合には、壬辰倭乱で北九州へ連行され、そこでキリスト教に改宗した人々が、半島に帰ってから信仰を維持し続けた、との伝承もあり複雑です。中国中世にもキリスト教は伝来していますので、その影響を受けた可能性も考えられますし、それ以前の六朝の事例にも、どうも『聖書』っぽいものがある。説話の東西比較や流通の検討は、まだまだこれからの分野です。