兄妹婚姻型の初子の障がいは、やはり近親婚による悪性遺伝が背景にあると思う。「除穢」の話は露骨に近親婚=穢れとする認識が表れていたが、この禁忌的な面と世界の再構築が同時に扱われるのはどういう理由からだろうか。

講義でも説明しましたが、現在人類学では、インセスト・タブーは女性の交換を促すために設けられたと考えています。すなわち狩猟採集時代、移動性であった人間の集団は15人程度が適正規模であり、その人数では、近親婚をした場合に縮小再生産に陥ってしまう。そこで他集団から女性を得るため、自集団の女性を外へ出す仕組みを作った。それがインセスト・タブーなのです。集団の生存・存続がかかっているため極めて重要ですが、それゆえに、タブーを破ることが世界の破滅に繋がったりするわけです。興味深いのは、世界の再構築がそのタブーを克服することから始まる点ですが、これはタブー自体の両義性にを表しています。例えばケガレについて考えますと、ケガレは秩序の攪乱によって生じるマイナス・エネルギーの象徴のようなものですが、いいかえると非常に強い威力を持っている。何らかの方法によってこれをプラス・エネルギーに変換することができれば、大いに役に立つわけです。『古事記』の黄泉国神話に語られるイザナキは、同国へ行って背負ってきたケガレを禊によって落とし、そこからアマテラス・ツクヨミ・スサノヲの3貴神を生み出します。この場合は、禊という儀礼が、マイナスをプラスに転換する役割を果たしているわけです。兄妹婚姻型洪水神話の場合も、石臼や針糸を用いた卜占によって神意・天意を確認することで、タブーを克服し、破滅をもたらす行為を再生をもたらす行為へ昇華しているのです。