平田派や出雲派は、アマテラスや造化三神を「認めない」わけではない、しかしそこにオホクニヌシも加えてほしいという主張だったのでしょうか。 / 神道は多神教といわれますが、最高神を定めたがる点と矛盾するように思われます。

平田国学の主張は、とにかく幽冥界の問題と密接に結びついています。造化三神は世界を生成するエネルギーであり、アマテラスは高天の原を統括する存在だけれども、地上と密接に関わる幽冥界の支配者はオホクニヌシである。大地のうえに生きる人間は、まずこのオホクニヌシを奉祀しなければならないという考え方です。この幽冥界の概念は『古事記』にも『日本書紀』にもなく、平田国学によって一般化したものでした。一時期、伊勢派はアマテラスと幽冥界を結びつけようとしますが、平田国学に論拠がなかったため説得力を持たなかった。ゆえに出雲派の主張を斥けるため、幽冥界の議論自体を否定する方向へ進んでゆくのです。なお、多様な神々にヒエラルヒーの設けられることは、多神教のなかでも一般的にあった現象です。例えば、ユダヤ教と対立する西アジア多神教においても、次第にバアル神に力が集中し、他の神々はバアルの力の顕現と考えられるようになりましたし、ギリシャの神々のパンテオンにも最高神が存在します。ただし、それがアニミズム(万物霊魂論)に当たるかということになると、疑問が生じてくるわけです。