『日本書紀』を叙述する際に「潤色」があったというのは、間違えてしまったのでしょうか。もしそうなら、例えば中大兄「皇子」を、なぜ「王」と表記しなかったのでしょうか。

間違いがあったわけではなく、日本の国王が単なる「王」ではなく「天皇」であることを標榜するため、神話的存在である神武天皇から「天皇」「皇」の字を用いているのです。日本で最初に「天皇」を名乗るのは天武ですが、当時は唐や新羅でも天皇号が用いられていました。天武の使用は、この東アジア的流行に則ったものと思われます。列島内部の文脈からいうと、神祇の司祭者である大王から、逆にそれらを下位に置く皇孫としての支配者となったのが天皇です。その権威はアマテラスから地上の支配を委任されたことにより成り立っているので、当初から大王ではなく天皇なのです。