あの一例からだけではなかなか難しいのですが、『信貴山縁起絵巻』の演出も考慮しなくてはなりません。下巻は、主人公である寂蓮法師の姉尼公が、弟を訪ねて奈良の都周辺を歩く内容です。すべての場面で、尼公の行動がクローズアップされています。紹介した場面で、尼公の背後の女性象徴が仰々しく祀られ、男性老人の背後の石があっさりと描かれているのは、尼公の主人公性や聖性を際立たせるしかけなのではないかと思われます。出家である彼女は従者ひとりだけと描かれ、老人は家族を引き連れているなど、あらゆる点で対比の構図が明確なのです。