クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』では、直前の第一次世界大戦との関係が「忘却」の原因とされてきました。しかしこの場合は、政治史・国家史を重視してきた近代歴史学の枠組みのせいでしょうね。日本史教育もこの考え方に沿って行われてきましたので、とうぜん病気を歴史を考えるうえでの重要なファクターとはみなしてこなかった。それによって、現代日本人の歴史に対する考え方、想像力自体が、災害や病気を排除する方向に組み立てられてしまっているのです。怖ろしいことであると同時に、自分たちがいかに「近代」に縛られているかが明瞭になりますね。