『千金翼方』は、どの階層の人に読まれたのでしょうか。皇帝レベルの人にも読まれたのでしょうか。

実証はできませんが、不老長寿を夢みた歴代の皇帝は、割合に多くの医書を集積し、読んでいたようです。秦始皇帝などはそのために方術の士を集めていますし、南北朝・梁の武帝などは、まさに陶弘景をブレーンとして尊崇していました。北宋で行われた『太平御覧』『太平広記』の編集などは、あらゆる知を総覧する皇帝権力の表明として行われ、本草学や博物学も、森羅万象を総覧できるのは天子のみという思想に裏打ちされてゆきます。皇帝だからこそ、医書の知識を欲したという情況はあったはずです。