イザナミ・イザナキの婚姻の問題ですが、話しかける順番だけではなく、回り方の問題もあったと思います。これはどのような意味を持つのでしょうか?

大樹や山、柱の周囲を回るというモチーフも、広くアジアの兄妹婚姻神話に出てきます。回り方は、イザナキがイザナミに、「汝は左から回れ、私は右から回る」という宣言をしますので、タブー破りには繋がってきません。しかし、左と右のどちらを尊貴とするかという、かつてロベール・エルツの指摘した「右手の優越」の問題が現れていますね。ちなみに大樹や山を回る婚姻儀礼は、別の方向から出発したものが最後に合致するという、まさに婚姻の暗喩になっています。朝鮮半島に分布する話では、山の右と左から石臼の凸型と凹型を転がし、麓で重ね合わせるという展開になっています。やはり山の両側から糸と針を投げて、麓で穴を通すというものもありますね。いずれも性交渉を表現していますが、イザナミ・イザナキの場合はより直接的で、出会ったところで交渉を持つという物語り形式です。