日本では、目にみえない"神"の存在を第一に崇め、祭祀の対象を形に表さないことが近年の風習ですが、古代では青銅器に描く自然を対象にしたり、古墳の被葬者を対象にしている。どの段階で、祭祀の対象を具現化しなくなったのだろうか。

このあたり、やはり問題の整理が必要です。まず、神格の偶像化/具体化は、例えば進化のように直線的、単線的に起きてくるのかということ。土偶を大地母神の形象とみるなら、すでに縄文時代に神格の偶像化は起きています。また神社の原型となる古墳時代の祭祀遺跡には、多く磐座が存在します。これは一種の巨石信仰ですが、人びとはこの岩自体を崇めていたのか、それとも岩に宿る神霊を崇めていたのか。どちらの立場に立つかで、信仰対象の具現化/抽象化の問題は、180度変わってきます。また仏教の影響を受け、神祇信仰でも、少なくとも平安時代以降は「神像」を出現させてゆきます。伊勢神宮でも、アマテラスの神像が作られたことはありました。「日本では神を実体化しない」とする言説自体が、実は極めて不正確なのです。