神仙思想は日本の御伽草子にも取り入れられているそうですが、どうして川が桃源郷に繋がっているのでしょうか? 私なら空をイメージします。 / 上流から高貴な人が流れてくる話は世界中にあると思いますが、日本のように急な川ばかりある国では少ないのでしょうか?
あらゆる地域で、川は生命の源です。灌漑農耕にしても都市生活にしても、川や井戸がなければ成り立ちませんし、交易・流通の面でも極めて重要な意味を持っていました。洪水による被害も恐ろしいものでしたが、平時の恩恵には計り知れないものだったのです。よって、川が神聖視され、その川の源泉が、ある意味で幻想のなかで尊崇されてゆくのは、必然の帰結であったようにも思われます。古墳時代に湧水点祭祀が始まるのも、そうした意識と密接に結びついているのでしょう。桃源郷は、そうした生命の根源たる「水源」を、ユートピアとして表現したものです。ということでもちろん、川上から聖なるものが流れてくるタイプの物語は、日本にも多く存在します。例えば、日本の神社縁起の一原型をなす賀茂社の伝承。『山背国風土記』の逸文と考えられていますが、賀茂川の上流から流れ下ってきた丹塗矢を持ち帰った玉依毘売が、神の子を妊娠するという展開になっています。松尾大社も、同じタイプの縁起伝承を共有しています。