国家が最良の社会形態かどうかという問いは、納得をもって受け容れられましたし、考えるところがありました。しかし、古代と近代の国家では、少し性格を異にするため、同様に論じることができるのかという疑問があります。

そのとおりですね。ちなみに、マルクスエンゲルス以降の社会科学的国家論は、いわゆる古代社会からどのようにして国家が誕生し、その性質を変えながら近代の国民国家に辿り着くかを史的に論じています。クラストルが射程に入れたのは国家の始原への批判ですが、スコットのゾミアは中近世、そして近代の領域国家の問題を扱っています。さらに現代の狩猟採集民、焼畑農耕民、移動民の間にもさまざまな国民国家との軋轢、衝突があり、国連が彼らの権利を保護する宣言を採択しながらも、まだまだ国際社会は搾取と抑圧を続けています。クラストルやスコットの射程は、現代国家にも向けられているのです。