ロイヤル・タッチのような宗教行為は、現在どの国においても存在していないように思います。一体いつ頃から、どのくらいのスピードで、このような共同幻想は薄れていったのでしょうか。

ブロックの『王の奇跡』では、まさにロイヤル・タッチが失われてゆく過程を、中世的王権の終焉として描いています。つまり、王と民衆との間で醸成されていた共同幻想(集合信仰)が解体してゆくというものです。このイギリス・フランスの神聖王権のあり方は、正確にいうと、グレゴリウス改革に対抗する世俗王権の一表現であり、民衆の王に対する忠誠・信頼がそれを可能にしたと考えられています。しかしイギリス名誉革命フランス革命に至るプロセスが、それらを解体してゆく。すなわち、民衆の王に対する信頼が失われた時点で、王の(持つと信じられた)徳性に起源するこの信仰も消えていった、というわけです。