父祖の語りを権力者との間に行う際に、権力者はその真偽をどのように確認したのでしょうか。

王権との間で父祖語りを行う場合、王権に対する貢献を並べ立てるわけですから、ある程度の情報管理機構を備えた王権の場合、それに関する記録は何らかの形で保管されていたと考えられます。古代日本の事例でいえば、7世紀末の天武・持統朝に契機があるといわれる『古事記』、8世紀半ばの恵美押勝政権が編纂しようとした『氏族志』、9世紀の嵯峨朝に成立した『新撰姓氏録』のいずれもが、ある氏族が別の氏族の名称を奪い偽って名乗るような事象、虚偽の来歴を物語るような姓氏の乱れを是正すべく行われています。いうなれば、父祖の物語りを奪いあう情況が存在し、それを王権・国家が適正な方向へ復帰させようとしたわけです。氏族らが氏姓の改賜を申請してくる事態、人民が誤って戸籍に記載された自分の身分の復権を願い出てくる場合もあり、当時の政治情勢に左右されながらも、国家機構がそれについて調査し真偽を判断している記録は残っています。問題は、このようなシステムがいつ頃から整備されていったかですが、まさに諸氏が王権の諸務を世襲分担する氏族制が展開する5世紀以降、中国や朝鮮の文書行政をよく知る渡来人たちの力を借りて、構成されていったものと考えてよいでしょう。