アイヌの人々への先入観がありましたが、彼らはただ弱者として国に服従していたわけではないことに驚きました。こうしたマイノリティーに対する先入観は、どこから生まれるものなのでしょうか。

重要なことですね。アイヌの人々に関しては、どこかで「土人」表象が刷り込まれているといえそうです。ぼくらの子供の頃は、ふつうに「土人」という言葉がまだ使われていましたが、1980年前後でしょうか、差別用語として公には使用されなくなりました。「土人」は本来、漢語としては「在地の人」といった程度の意味ですが、中央=支配者に対する地方=被支配者の関係を含み混んでいましたので(貢納の対象となるような在地の産物は「土毛」という)、やはりまったくのフラットな言葉ではありません。それが帝国日本の時代、日本を宗主国とする植民地の人々を指す言葉として使用され、「勤勉な日本人」に対する「怠惰な土人」といった二項対立的イメージで意味付けされてゆくわけです。「北海道旧土人保護法」の「土人」にも、そうした色づけがなされるようになってゆきます。戦後も、東宝の怪獣映画や子供向けの絵本、マンガなどを通じて、それらの表象は再生産されてゆきました。「未開で、野蛮で、惰弱で、それゆえに支配されなければいけない人々」。そうした印象操作は、常に支配する側から発進されます。注意しなくてはいけませんね。