レヴィ=ブリュールの原始心性(融即律)について面白いと感じましたが、具体例が思い浮かびません。教えていただけるとありがたいです。

例えば、調査に赴いた民族社会で、あるインフォーマントが、「われわれにとってトラはトラだが、トラはヒトでもある。トラが人間をかみ殺してその血を啜っているとしても、そのトラは果実酒を呑んでいるのだ」といわれたとします。われわれの認識においては、トラはトラであり、人間の血は人間の血なので、トラ=ヒト、人間の血=果実酒という公式は成り立ちません。しかし、その民族社会においてはそれが成り立つ。レヴィ=ブリュールは、これをヨーロッパの近代科学的認識とは異なる論理を持つ認識方法、思考方法だと考えたわけです。類似の思考法は例えば仏教にもあり、『般若心経』の「色即是空、空即是色」などはよく知られたものでしょう。「色」=現前する実体世界と、「空」=実体は幻像に過ぎず本質は空虚であることが、イコールで結ばれる。これも、日常一般的な論理ではイコールで繋がりませんが、仏教思想を介せばしっかり等しく結ばれうる。レヴィ=ブリュールの段階では、未だ民族社会独自の論理を充分に明らかにしえなかったので、「未開の心性」とブラック・ボックス化されている点もあるのです。