遣唐使派遣中止の実相がよく反映していないとのことですが、道真の建議にある僧中灌の報告によれば、そのプロセスは容易に想像できるのではないでしょうか。

問題は、ある程度信頼できる中止の史料が、『菅家文草』収録の建議書しか見出されていない点です。道真は渡航の不安のほか、唐の政治的・社会的混乱を挙げて、派遣を公卿で審議するよう提案しているのですが、残念なことに、彼の建議が取り上げられて朝廷で審議がなされたとか、その結果として遣唐使が廃止になったのだなどといった史料が残っていない。よって、当時の朝廷が道真の建議をどう受け取った、それによってどう対処したかが分からないのです。