東北では、黒松などが防潮林として藩主導で積極的に植えられていたが、森林の役割自体はこの時期重く認識されていたということでしょうか。

もちろんそうです。授業でも扱いましたが、江戸初期には東北各藩で山林資源の大規模な枯渇がみられたため、土砂災害なども多く、藩主導での植林政策がプランニングされています。近畿の土砂止めの法令も同じですね。ぼくの妻の実家がある秋田の能代でも、「風の松原」と呼ばれる大規模な防砂林が、やはり藩政時代からの長期にわたる植林で醸成されています。森林の重要性は農民レベルで経験的に認知され、また研究も行われていましたが、同時に伐採しなければ経済が回らない、生活が成り立たない現実もあった。それをバランスよく保持することができなかったところに、江戸期の自然環境/経済関係の限界、構造的欠陥が存在したのだといえます。