神仏習合とは少し離れてしまいますが、日本では天皇を神として考えてきました。なぜ神武天皇のような存在が考え出されたのでしょうか?

神武天皇は、国家の始まりを象徴する存在です。7〜8世紀の古代国家が、国内外に「日本」の起源を説明しようとするとき、中国王朝の始祖たちに準えて創出したものと考えられます。その描写には、漢籍に基づくフィクションも多いのですが、大王家はもちろん、ヤマト王権を構成する畿内豪族のなかに伝承されてきた、建国の始祖の姿、その言動なども反映されていると考えられます。それゆえに、いわゆる自然象徴=神というより、極めて人間的な姿に描かれているのです。橿原における宮都建設に至る戦歴などは血みどろで、とても〈和を重んじる国民性〉とは合致しません。このあたりのことは、近代や現代の神話観が古代のそれを換骨奪胎したものであること、古代神話の知識が一般に共有されていないことを示してもいます。