中近世のアイヌ文化は、現代でもアイヌたちによって行われているのですか?
社会や経済のあり方が変われば、伝統文化も変質しますし、また維持できないものも出てきます。現在、日本列島全体で伝統的な年中行事が消失しつつありますが、とくにアイヌの場合は、近代における同化政策の影響で、破壊されてしまったものも多くあります。主に北海道のアイヌの人びとは、近代に失われてしまった祭礼を復活させたり、さまざまな努力を重ねていますが、やはり中近世そのままの状態を保全するには至っていません(もちろん、そうした「保全」が正しいことなのか、という議論もあるでしょう)。イヨマンテなどは、その本義は子熊の精霊を父親や母親の待つ精霊の世界へ送り返す狩猟関連の祭儀ですが、現在ではアイヌのアイデンティティを表象する民族的祭儀へ意味付けを変えています。そのように、時代や社会の変化に伴って様相を変質させてゆくことが、文化として自然なあり方なのかもしれません。