冒頭で、「日本は国としてアイヌが先住民であることを最近まで認めていなかった」という話がありましたが、その理由が気になりました。先住民という言葉に野蛮な印象があるからでしょうか。 / 沖縄の人々を先住民として認めるよう求める国連勧告に対し、幾つかの地方議会が反対する決議を行いましたが、これはどういう問題なのでしょうか。

あれ、授業で説明しなかったでしょうか? 国連で2007年9月13日に採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」には、あらゆる差別、強制的な同化、文化の破壊を否定し、先住民を内包する国家は、そうした抑圧の防止と彼等の救済のために、種々の効果的な措置を講じねばならないとされています。この宣言の起草に向けて最初の動きがあったのは、1982年以前のことで、先住民差別に関する調査報告書の作成・提出を受け、経済社会理事会において国際連合先住民作業部会が起ち上げられたのが契機です。かかる動きのなかでは、アイヌを先住民として認めてしまうと、日本国には彼らを抑圧してきた責任と補償の義務が発生してしまう。北海道においては、土地の権利関係その他をめぐり、種々の訴訟が発生する可能性もある。そうしたことを見越して、北海道旧土人保護法が1997年まで維持され、2008年に至るまで「先住民」認定が回避されてきたのだと考えられます。沖縄の問題も、根っこは同じです。日本が沖縄をかつて琉球王朝という主権国家だったと認めていないのは、それを認めるといわゆる「琉球処分」が侵略であったことを肯定することになり、沖縄の意向を抑圧して基地整備などを進める大義名分が失われてしまう。まあそもそも、明治政府は廃藩置県を断行するために「琉球藩」を捏造したわけですから、最初から正当性などは微塵もないわけです。「沖縄はもともと本州と同じひとつの日本、国連勧告はその共同体意識を分断するもの」という発言は、まったくの欺瞞に過ぎません。

今年の5月末、旧優生保護法は違憲であるが、国の賠償責任は認められない旨の判決が出ました。私個人としては納得できない判決ですが、先生はどう受け止められましたか?

優生保護法については、どこかで扱いたいなと思っています。前のシリーズでは、ハンセン病患者のクリアランスの問題、すなわち「無らい県運動」に絡めて行われた強制隔離収容と、その後の優生保護法までの流れを扱いました。今回はリプロダクションの話もしますので、その関係で言及するつもりです。でもって、さて、ぼくも当然納得できません。このところ、行政の記者会見では問題が出来しているというのに「問題ない」「適切な対応だった」、司法では違法なのに「責任は問えない」という不思議な「落としどころ」が、常套句のように氾濫しています。授業でもお話しするつもりの築地/豊洲問題では、法律が正常に機能していない現状を目の当たりにしてきました。いま日本は、ひょっとすると「崩壊途上国」になっているのかもしれない。そういう危惧を強く感じています。

久志富佐子さんの釈明文を載せたということは、『婦人公論』はニュートラルな立場かと思ったのですが、筆を折られたということは、『公論』も本土の考えに寄っていったのでしょうか?

授業では筆を折らざるをえなかったとお話ししたのですが、厳密には、久志はその後も名前を変え、短歌や小文を発表しています。しかし作品数としては多くはなく、内容もあまり振るいませんでした。40年後にかつてを回顧して行われたインタビューでは、筆禍事件となってしまったデビュー作の衝撃について、「マスコミが恐くなりましたし、今でも恐い」と発言しています。水谷明子氏の論文「近代沖縄女性と書くこと」(『沖縄文化研究』32、2006年)では、読者からの反響を得て自らの文学を形成してゆく大事なときに大きな抑圧を受け、そのトラウマから最後まで抜け出すことができなかったのだろう、と指摘しています。

【レポート関連】期末課題についての質問、2です。

Q.)具体的に日本史上の出来事を研究するのではなく、例えば「世界は軋み始めているのか」などの抽象テーマを、アジア史、または西洋史で論述するのは大丈夫でしょうか?

A.)歴史の知識を題材として使う、ということであればよしとしましょう(メインの内容が外国史であっても構いません)。しかしその場合も、講義でどのようにそのトピックを扱っていたのか、しっかり位置づけてから論述するようにしてください。

Q.)レポートで、多種多様性について書く場合、平城京などのいわゆる歴史らしい内容を含まない場合もあると思いますが、それでもよいのですか?

A.)上に準じます。あくまで歴史の講義ですので、歴史について扱われていなければ、受講生が単位を出して良い水準に到達したか判断できません。よって、抽象的なテーマについて考察する場合でも、歴史的な事象を考察の素材として扱ってください。

レポート関連です。

Q.)先生が、教授の授業でアイヌの人骨の話を絡めて優生思想を扱っていましたが、それをレポートの題材にしてもいいでしょうか。

A.)どうぞ、挑戦してください。アイヌ琉球、朝鮮、人骨盗難は学問の暴力でもあり、学府に連なる者であれば、自分の問題として追究/追及する責任があります。近年、研究も増えてきていますので、ぜひ頑張ってください。

レポート課題がLoyolaでみられなくなっているとのことなので、以下に同じものをアップしておきます。

【テーマ】講義中に扱ったトピックのうち、自分の関心のあるテーマを任意に選び、学界での議論の現状や講義の内容を踏まえて、自分なりに考察しなさい。

・字数は、3200字程度(400字詰原稿用紙換算8枚程度)。

【書式】A4用紙

・用紙はA4に統一のこと、書式(縦書き・横書き、字数・行数など)は自由。直筆でも、ワープロ・プリントアウト原稿でも構わない。

【提出〆切】8月5日(月)16:00

※ Loyolaでは8/4になっていると思いますが、日曜なので、延長して8/5とします。

【提出場所その他】7号館9階奥の専用ポスト

・メールに添付しての提出も受け付けるが、その際には受領の返信を確認すること。

 

【レポート関連】期末課題についての質問をまとめました。

Q.)これから各時代のトピックについて入ってゆきますが、レポートで扱うトピックは、それ以前のタイムラインの講義で少しずつ出てきたものでも構いませんか?

A.)もちろんです。ガイダンスから最後の回まで、どこかで触れたものであれば何でも構いません。

Q.)レポートでは、必要に応じて図や表を引用しても構いませんか?

A.)これももちろん、構いません。しかし引用の場合は、しっかり出典を明記してください。

Q.)「学界で議論されていること」は、どのようにすれば分かるのですか?

A.)それぞれのテーマに沿った、最新の論文や、あるいは最新の論点をまとめた概説書を読めば分かります。論文の探し方は、坂野先生の「歴史学研究入門」で学んでいるはずです。概説書も上智OPACNDL-OPACなどで検索できますが、授業の2回目でも大体のものは紹介しておいたはずです。

Q.)世界史選択だったためか、先生の授業がまったくといっていいほど分かりません。高校の日本史の教科書を使って勉強したらカバーできますか?

A.)お話ししていることを、すべて細大漏らさずに把握しようとするから、混乱するのではないでしょうか。大学の授業では、教員の話を自分なりに整理し、場合によっては取捨選択して聴く必要があります。世界史選択だったのなら、タイムラインの各時代のところでアジア史に結びつけて大まかな流れを整理しているわけですから、自分の知っている世界史の知識と関連づけながら、この中国王朝の時代に日本列島では何が起きているのか、この中国や朝鮮半島の戦乱が日本列島へどう影響を及ぼしているのか…などとまとめてゆけば、流れは理解できるのではないでしょうか。天皇の即位順や系図などについては、やむをえずに紹介していますが、それを一々把握しておく必要はありません。あとは、関心のあるトピックについて、適宜調べてゆけばよいだろうと思います。略年表は配付してあるわけですし、それに多少メモ書きしたり、事象をカテゴライズするだけでも、各時代の整理はできるはずです。なお、もし勉強するのであれば、せっかくですから、高校の教科書より、ガイダンスのときに紹介した参考文献の概説から、比較的簡単に読めそうなものを選んでみたほうがよいでしょう。