2018-10-10から1日間の記事一覧

水戸学についてですが、水戸学を興した水戸藩は徳川御三家、すなわち徳川政権の一部であるはずなのに、なぜ武家政権を批判しうる、王権を軸とした『大日本史』を編纂したのでしょうか。

徳川政権も、天皇から征夷大将軍を拝命している意味では、王権に依存した機関です。そもそも幕府とは、中国南北朝時代の府官制に起源する機関で、皇帝権力を分有する将軍が、内乱地域を安定させるため、一定期間臨時政府を設置することを認められたものです…

ナショナル・ヒストリーは、必要ではないものなのでしょうか。国家にとって、ある程度の統一感は必要に感じます。

皇国史観のところで触れたように、ナショナル・ヒストリーが基本的には怖ろしいものである、国家の目的に国民を動員してゆくために、その自由はもちろん、基本的人権さえ侵害する危険性を持つことを、まずは充分に認識すべきです。国家が正当なものとして公…

歴史学には主観も大切、ということが印象に残りました。しかし、主観は人によって違うわけですが、ならば「歴史」とはどう完成されるのでしょうか。歴史学者が書いたもののなかで、共通点だけ残したものが「歴史」ですか?

授業でもお話ししましたように、この全世界で1秒間に起きる出来事のすべてを記録することすらできない以上、「完全な歴史」はありえません。歴史叙述は、永遠に完成することはないのです。いいかえれば、偏重や欠落を、集合的主観の創り出す多様性で補完し…

江戸時代には階層、藩ごとに考え方や価値観が異なっていたものを、明治に統合してゆくのは困難が伴ったとのことですが、現在の日本もマジョリティの考え方によって人が動いているので、歴史もマジョリティの思考を教えるしか余裕がないのではないでしょうか。

マジョリティの思考とは何でしょうか。端的に「大多数の」と考えた場合、それは一般庶民の歴史観ということになり、現在主義的な教訓や、多くは現状を正当化するために物語的な歴史が再生産される状態でしょう。実証主義的な〈事実〉は、それほど重要視され…

現在主義的な歴史の捉え方とは、例えばどのようなものでしょうか。

すでに授業でお話ししましたが、マルクス主義歴史学なども現在主義です。ランケの実証主義は、それぞれの時代に優劣はなく、古代には古代の、現代には現代の固有の価値があると考えますが、現在主義では文字どおり現在が最も重要で、先行する各時代は現在を…

国史・西洋史・東洋史の3区分で捉えているのは日本と韓国のみとのことですが、中国は国史と西洋史の2区分ということでしょうか。

一般的には、自国史とそれ以外の国々の歴史=世界史、ということになるのでしょう。中国では、広大な地域において種々の事情の相違がありますので、やはりナショナル・スタンダードが完徹されているわけではありません。1999年から現在まで続く教育改革のな…