『伴大納言絵巻』には下書きがないとのことですが、絵巻における下書きとはどのようなもので、どんな道具を使ったのでしょうか。

道具はもちろん筆ですが、顔料は白色のものを使用しました。日本画の手法としては、「胡粉」を用いるのが一般的です。貝殻を用いた白色顔料で、加工もしやすく、使いやすかったのでしょう。下書を「粉本」と呼ぶ語源でもあります。「胡」は、中国からみて西域より伝わったことを意味しており、奈良期には実質的に鉛白(塩基性炭酸鉛。鉛に酢と塩を加える)を指したようですが、後に区別され使い分けがされるようになります。『伴大納言絵巻』では、高位(大臣級)の人物の顔色に鉛白が用いられていることが、近年の科学的分析で判明しています。
ところで、『伴大納言絵巻』にも、建物を描いた箇所には下書きや描き直しをみることができます。しかし蛍光X線分析の結果では、これまで知られている白色系の顔料とは異なる反応が出たとかで、まだ顔料を特定できていません。