2019-10-16から1日間の記事一覧

グローバル化とはいったいいつから始まったのでしょうか。国家という枠組みができてからですか?

現在のグローバリゼーションは、狭義には戦後、航空網が世界的に拡大し、人・モノ・情報の国際的移動が活発化、人々の政治・社会・経済・文化的活動が、国民国家の枠組みを超越して展開されてきたことを指します。しかしご指摘のように、国境を越えたさまざ…

なぜ江戸時代は過剰に幻想化されるのでしょうか?

江戸時代の幻想化自体は、近代に始まります。いわゆる、近代化の揺り戻しとしての懐古趣味です。明治後期、失われてゆく情緒に対するノスタルジックな憧憬が、文化人を中心に始まりますが、そのなかで江戸期特有の苦しみや痛みは、忘れ去られてゆくことにな…

歴史小説も歴史理解に影響があると仰っていましたが、大河ドラマなどについてはどうお考えですか。

ぼく自身は、歴史小説にしても歴史ドラマにしても、factチェックという意味での関心はあまりありません。それらはあくまでフィクションであるわけで、事実の改変などに対する批判は、そもそも必要のないことです。むしろ、それらのフィクションを通じて過去…

「表現の不自由展」が再開されました。そのなかに、東北における東日本大震災の被害を揶揄するような展示がありましたが、先生はそれについてどう思われますか?

Chim↑Pomさんの映像作品ですね。実際に福島において、自分たち自身も被災しながら、救援活動、復興活動に尽力してきた若者たちの言葉なのだ、という点が重要でしょう。つまり彼らは当事者である、ということです。もちろん、当事者であればすべてが許される…

実証主義の立場に、「無用より有用を重視する」とあったが、歴史における無用なものとは何だろうか。何をもって有用/無用を分けてゆくのか。

これは、実証主義歴史学というより、コントの実証主義の立場ですね。コントのあり方としては、哲学に科学としての価値を与えることが目的です。現代の日本史においても実学(=自然科学や社会科学の一部)重視、虚学(人文科学)批判が叫ばれていますが、そ…

先生は実証主義についてどう思われますか。 / 現代の価値観で過去を捌くことは誤りであると思うが、現代をよりよく生きるために過去に関する知識を用いることは重要と思う。実際に、現代の歴史学はどのような立ち位置なのだろうか。

まず、実証主義歴史学の特徴は、史料を分析することによって〈事実〉を明らかにできるとする認識論、それを公平無私な叙述によって表現できるとする叙述論が根本です。この2つは、1990〜2000年代に世界を席巻する〈言語論的転回〉(後述します)によって否…

ナショナル・ヒストリーを鵜呑みにするのはよくないと思うのですが、基本的な知識がまずなければ、歴史を考える段階にまで至らないのではないでしょうか。

歴史総合などの思考型歴史教育が始まるのを受けて、高大連携歴史教育研究会などでは、例えば授業で学ぶ必要のある語彙の精選などを行っています。最低限必要と考えられるのはいかなる知識か、ということですね。しかし、ここでよく考えていただきたいのは、…

功利主義と現在主義には相違があるのですか?

狭義の哲学用語としては、最大多数の最大幸福を倫理の基準に置くのが功利主義でしょう。学問その他も、そのために実用的なもの、実効的なものが重視されます。一方の現在主義は、現在の利益のために過去を動員する考え方で、現在と分離したところでは過去の…

◎1に挙がっていた重野安繹の論文にある「至公至平」について、先生はアジア的と仰っていたと思いますが、どういうことでしょう。アジアには公平な倫理観があるということでしょうか。

授業の冒頭の崔杼のところで触れましたが、中国的史官=歴史編纂・保管・運用官の理想像は、天に対して公明正大なポジションを守り、その筆を通じて王権や国家の興廃を記して、後世のため勧善懲悪を実現することでした。六朝の梁の時代に編纂された文学論、…

ランケの〈神〉が日本の〈天皇〉に置き換えられたとき、「神の真理に近づきたい」というようなランケの動機とは、異なる部分が大きかったように思うのですが?

ランケにおける〈神〉とは客観性の基準となるもので、いわば事実や実証の象徴だったのではないかと思います。ランケ自身が前近代的なものから完全に自由になっていたなかったことは確かですが、それはまた中世的な神のイメージとも異なるものだったでしょう…

授業内ではあまり触れられていませんでしたが、別の授業で「支那」を外国からみた中国と学んだので、支那史学が中国史学ではなく東洋史学に改称されたことに疑問を持ちました。

「支那」は、例えば『日本国語大辞典』では、「秦」の国名が西方に伝わって西域語化したものが、再び東方へ入って漢字により音訳されたものとされています。日本では古来、王朝名で呼ぶか、唐以降は概ね「唐」字をもって中国を表象することが行われました。…